起業をする場合、最初に発起人全員で定款の作成をしなければなりません。
その後出資を行い、設立登記をすることで法人格が取得でき、会社が成立します。
定款は会社にとって欠かすことのできない文書であり、これを作成せずに会社を設立することはできません。
そのため、会社を立ち上げようと考えている方は定款の具体的な記載方法についても理解しておく必要があります。
そこで、今回から3回に分けて、株式会社における定款の記載方法について解説していきます。
定款の記載事項には、「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」の3つに分けられますが、今回の記事では、特に「絶対的記載事項」について解説をしていきます。
相対的記載事項については中編で、その他任意的記載事項については後編で解説していきます。
定款に記載する事項は、基本的に発起人らが自由に定めることができます。
しかし、会社の基本情報にあたる一部の事項に関しては“絶対に定款に記載しなければならない”とされています。
そうした事項は「絶対的記載事項」と呼ばれ、これを欠いた定款は無効になってしまいます。
会社の設立に関する様々なルールは、「会社法」という法律に定められていて、この定款に関することも、その会社法に記載されていて、「絶対的記載事項」については、以下のように書かれています。
(定款の記載又は記録事項)
第二十七条 株式会社の定款には、次に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない。
一 目的
二 商号
三 本店の所在地
四 設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
五 発起人の氏名又は名称及び住所
引用:e-Gov法令検索 会社法第27条
この条文で、「次に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない」とあるため、「次に掲げる事項」は“絶対に定款に記載しなければならない”とされていて、絶対的記載事項といわれているのです。
法定されている上記絶対的記載事項について、定め方・定款への記載方法を詳しく説明していきます。
絶対的記載事項の1つ目は「目的」です。
これは、会社の目的のことで、“どのような事業を営むのか”ということを意味します。
そこで「〇〇の製造および販売」「〇〇の売買」などといった形で、その会社が営む事業を記載していきます。
基本的には、会社を設立したらすぐに行う事業を記載するものですが、実際に事業を始めてみたら、当初想定していた事業だけではなく、それとは少し違ったこともやりたいとなったりすることがあったりします。
そした場合には、定款の目的を追加すればよいのですが、目的を追加する場合には、変更したことを法務局に届け出なければならず、その届出、登記のための費用が発生します。
そこで、そうした変更登記を頻繁に行うことを避けるため、会社の目的を多めに記載しておいたり、最終の号に「前各号に関連する一切の事業」と記載しておくといったことが行われます。
会社の目的の個数の上限は特にないため、理屈上はいくつ書いても構わないと考えられますが、あまりに多いと、融資を受けたり取引を開始するために金融機関などの相手方から登記事項の証明書を求められて、あなたの会社はいったい何をする会社なのですか、と尋ねられたりします。
設立から年数が経って、様々な事業に進出していった結果、会社の目的がたくさん書かれているというのは自然です。
しかし、設立間もない会社の目的がたくさんあるのは、相手方からすると不思議に思われて、この会社は何をしようとしている会社なのかわからないと思わせてしまうこともあります。
そのため、まずは、会社設立後におこなおうとおもっている事業と、それに関連しそうな事業、そして、「前各号に関連する一切の事業」だけ記載するのがよいでしょう。
ここで注意すべきポイントが2点あります。
1つは事業を行うにあたり許認可を受ける必要がある事業を含める場合です。定款に記載する時点で許認可が必要な事業を目的に記載してもかまいません。
しかし法文に沿った事業名で記載をしておかなければ許認可の申請が通らなくなるおそれがありますので、名称の記載については要注意です。
もう1つは専門用語やローマ字などを使用する場合です。広く認知されている言葉や用語辞典ですぐに確認ができる言葉でなければその後の登記申請で問題が生じるおそれがあります。
そこで無理に専門用語を使ったり造語を使ったりせず、客観的に見て何を表しているのかが明らかになるような表現を使うようにしましょう。
あるいは括弧書きで説明を付しておくと良いでしょう。
商号は会社の名前を意味します。
「〇〇株式会社」「株式会社〇〇」などのことです。
通常は、定款の第1条で「当会社は、〇〇株式会社と称する。」などと商号を記載します。
ここで注意すべきは、“商号と本店所在地が同一の会社”がすでに設立されていないかどうかを確認するということです。
この場合には設立登記ができないため、商号を定める前にこうした会社の存在をチェックしておかなければなりません。
また、株式会社を設立する場合には“株式会社”、合同会社を設立する場合には「合同会社」という文字が商号には含まれていなければなりませんし、一部使用できない表現もありますので要注意です。
例えばローマ字やアラビア数字などは問題なく使えるところ、括弧やスペース(空白)などは用いることができません。
本店をどこに置くのか、という情報も必要です。
「当会社は、〇〇に本店を置く。」などと記載します。
本店所在地に関しては最小行政区画までで良いとされているため、市町村が特定されれば十分です。
むしろ細かく記載しすぎると本店を移したときに定款変更の手続きを執らなければならず手間がかかります。
そこで実務上、最小行政区画までの記載とし、あえて「〇丁目〇番地」といった情報は含めないこともあります。
会社法第27条第4号に規定されている「設立に際して出資される財産の価額又はその最低額」とは、前回の記事に出てきた「資本金」のことです。
これに関しては、商号や目的などを記載する“総則”ではなく、“附則”として記載する例が多いです。
よくある定款は、第1章総則、第2章株式、、、のように章を立て、その中に「第1条(商号)」「第5条(発行可能株式総数)」などのように、その章に関連する条項を記載する、という形になっていて、最後の章として「附則」の記載をおいています。
「設立に際して出資される財産の価額又はその最低額」は、この「附則」に書かれることが多いのです。
例えば「当会社の設立において出資する財産の価額は、金1,000万円とする。」と記載したり「当会社の設立において出資する財産の最低額は、金500万円とする。」と記載したりします。
会社法上も“価額又は最低額”と規定していますので、どちらの値を記載しても良いです。
ただし現物出資を行う場合には別途記載が必要となりますので要注意です。
「発起人」とは、会社を設立しようと企画して、実際に会社設立に必要な様々なことをする人のことです。
端的に、会社をつくろうとしている人、と理解してもらえれば大丈夫です。
発起人に関する情報も記載しないといけないことなのですが、先ほどの資本金と同じく、「設立に際して出資される財産の価額又はその最低額」と同じように、附則の章に記載することが多いようです。
法定されているように氏名・住所の記載は欠かすことができません。
また各発起人が引き受ける株式数やその引き換えに払い込む金銭についても記載されます。
書き方については自由ですが、一つの条項に列挙していくと見やすくすっきりした定款にできます。
例えば次のような書き方です。
発起人の氏名や住所、そして割当てを受ける株式の数と払い込む金銭は次の通りである。
〇県〇市〇町〇丁目〇番 〇〇(氏名を記載)
〇株 金〇〇万円
現物出資をする発起人がいる場合にはその旨と現物出資により引き受ける株式の数も記載します。
会社法第27条で規定されている絶対的記載事項ではありませんが、発行可能株式総数についても定款に定めなければなりません。
“株式”の章で、「当会社では、発行可能株式総数を1000株とする。」などと記載します。
自由な数で設定することができますが、公開会社の場合には発行済みの株式数の4倍を超えて定めることはできません。
後から新しく大量の株式を発行することで既存株主の持つ株式の価値が希薄化してしまうからです。
なお、発行可能株式総数は、設立手続を終えるまでには定めなければならないのですが、定款の認証を受ける時点では定まっていなくても定款認証を受けることは可能です。
出資される財産の額に応じて調整できたほうが適切な値とすることができるため、発行可能株式総数に関しては柔軟な対応が認められています。
ただ、定款認証前に決められるようであれば、決めて記載をしておいた方がよいでしょう。
今回は、定款の『絶対的記載事項』について解説してきました。
定款は、会社を設立するためには必ず作成しなければいけない文書です。
そして、その定款に書くことは「会社法」という法律に定められているのですが、
一 会社の目的
二 会社の商号
三 会社の所在地
四 資本金
五 会社を設立しようとしている人の氏名又は名称及び住所
の5つは、書かないといけないこと、書いていないと、そもそも、会社の設立ができないことです。
よくよく見てみれば、どれも、実体のない会社という存在に関する、必要最小限の情報、ということに思い当たります。
そうした、会社にとって必要最小限の情報が、定款には記載することが法律によって要求されていて、それらを総称して「絶対的記載事項」といわれているわけです。
定款を作成する際には、まず、これら5つを決めることから始まります。
いずれも、すぐに決まりそうに思えるものですが、いざ実際に決めようとすると、自分の理想や展望などが入り混じって、意外と決めづらいものでもあります。
しかし、それも、会社にとって絶対に必要不可欠なものであるからこそなのでしょう。
法人で起業する際には、まずじっくりと、この「絶対的記載事項」について考えてみてください。