起業の基礎知識|個人事業と法人の違いとは?

起業の基礎知識

事業を始めるときは、個人事業主として始めることもできれば、会社を立ち上げて法人として始めることもできます。
しかし、どちらであるかにによって、適用されるルールが異なってきます。
そのため、事業を始めるときには、それぞれの特色を理解した上で個人事業として起業するか、法人を立ち上げるかを選択する必要があります。
この記事では、個人事業と法人の違いを解説していきますので、ぜひ、参考にしてみてください。

個人事業主と法人で違うポイント

個人事業主と法人の違いとしては、以下の点が挙げられます。

  • ① 手続き
  • ② 事業体の運営
  • ③ 社会保険
  • ④ 税金の負担
  • ⑤ 社会的信用

細かく挙げていくと、ほかにも色々とありますが、まずは先に挙げた5つのポイントを押さえていくと良いでしょう。
以下、一つずつ解説していきます。

手続き

まずは、事業を立ち上げるときの手続きの違いです。

事業の立ち上げに関しては、個人事業の方が簡単な手続きで済みます
個人事業の場合、開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)を税務署へ提出するだけです。
提出にあたっては、手数料なども必要ありません。

また、これがないからといって開業したことが法的に認められなくなるわけではありません。
あくまで開業届は税務上の手続きで、ビジネスを行うこと自体は可能です。
だからといって、届け出をしなくていいということではありませんので、届出は必ずしてください

一方の、株式会社や合同会社といった法人を作って起業する場合には手続きが必要になります。
法人をつくるには、法務局という役所で、会社に関する情報を登録してもらう登記と呼ばれるものを行わなければなりません。

その登記をするのに、会社の名前や住所、どのようなビジネスを行うかを記載した定款とよばれるものを作成しなければなりませんし、株式会社を設立する場合には、その定款を公証役場というところにもって行って、公証人という人に認証してもらう必要があります。
加えて、登記などの手続きには登録免許税という税金や各種手数料も発生するため、時間・コストも個人事業に比べると大幅に増えます。

事業体の運営

個人事業主と法人では、事業を始めた後の事業体の運営が異なります。

法人の場合、内部の運営方針や変更事項などが生じると、その度に手続きをしなければなりません
その手続きには、費用も発生しますし、その手続きを専門家にやってもらったりすると、その委託手数料も生じます。
例えば登記事項の変更、公告等の手間が生じます。
本店所在地の変更、役員の変更にあたり登記をしなければならないので、経営を続けていくだけでも手間とコストが必要になります。

また、株式会社だと、毎年、株主総会を開いて決算の承認をしなければいけないとか、多額の借入をするときには取締役会の承認が必要など、会社法という法律により一定の手続きを行うことが義務付けられています
起業して最初の頃というのは、株主や取締役は自分一人だけだったり、親しい人だけということがほとんどですから、そんなことしなくてもいいのでは、と思われるのですが、法律上は、そうした手続きを行うことが求められています。

この点、個人事業主の場合には、許認可などを取得していないのであれば、収入と支出の記録をしていく経理業務以外に、特別に法律上行わなければならないことはありません
個人事業主にも「商号登記」という制度が設けられていて、お店の名前などを法人のように法務局に登録することができるのですが、法人とは異なり、こちらは、そういうことができるというだけで、義務ではありません。
また、決算の承認や多額の借入も、特に手続きをすることなく行うことができます。

事業活動を続けていく上では、経理も非常に重要な業務です。
日々帳簿に記帳し、税務申告をし、給与計算から年末調整なども行わなければなりません。

経理は法人でも個人事業主であっても必要ですが、法人に比べると個人事業主の方が負担が少なくなっています
法人の場合には、規模の大小に関わらず、同じ形式の書類を税務署に提出する、別の言い方をすると、規模が小さい企業に対しても、トヨタやユニクロのような大企業と同様の書類作成を求められますが、個人事業主の場合には、そこまで高度な報告は求められません。

これは、個人事業主というのは、街中の小さな商店なども対象となっており、そうした規模の小さな事業者に高度な報告を求めると、そうした事業者に過大な負担をかけることになってしまうからでしょう。
そのため、個人事業主の場合には、確定申告にあたっても、会計ソフト等を利用して自分だけで申告書を作成している方も多いです。

一方、法人の場合には、高度な報告が求められるため、経営者自身で対応するのは困難です。
会計上のミスが生じたときのリスクも大きくなってしまうため、税理士に依頼して対応するのが一般的です。

社会保険

社会保険も、個人事業主と法人とで異なります。
個人事業主は国民健康保険・国民年金に加入するのが一般的です。
従業員がいる場合でも、常に従事する人員が5人に満たないのであれば健康保険・厚生年金への加入は義務付けられていません。

これに対し法人として活動をする場合、基本的に、代表者は国民年金ではなく厚生年金・健康保険に加入します。
厚生年金では、保険料の半額を会社が負担することになっています。
そのため、国民年金と比べると、将来受け取ることができる年金の金額は多くなるのですが、経営者の立場からすると、保険料の支払額が2倍になってしまうため、社会保険の負担額が大きくなってしまうのです。

また、従業員に関しては、厚生年金・健康保険に加えて、雇用保険への加入が義務付けられています
給料のうち一定割合の保険料を法人が負担しなければなりません。

なお、業務に従事する人が代表者一人だけで、その代表者に役員報酬を支払っていないなどの場合には、健康保険・厚生年金への加入義務が発生しません。

税金の負担

個人事業主でも法人として活動する場合でも、税金の負担は避けられません。
しかしその負担の程度が異なります。

個人事業における税負担の特徴として、「利益が少ないうちは比較的負担が小さい」が、「利益が多いと法人より割合負担が大きい」ということが言えます。
これは、累進課税制度の有無によるもので、個人の場合には累進課税制度が適用されるため、所得に応じて税率が異なります(5~45%)が、法人の場合には、累進課税制度が適用されていないので、利益の大きさに関わらず一定(2022年1月現在の実効税率は29.74%)であるからです。

税額の計算は複雑で、事業内容や収支状況などを鑑みてプロに判断してもらう必要がありますが、一般的には利益が700~1,000万円を超えるようになれば法人の方が有利になると考えられています。
そのため最初個人事業として活動をしていた人が、利益の伸びに応じて法人へと主体を変えるケースもあります。
これを「法人成り」といいますが、法人成りに関しては後述します。

社会的信用

社会的信用も、個人事業主と法人では異なります。
一般に、個人事業主よりも法人の方が信用力は強く、個人事業主よりも法人の方が取引相手として好まれます

この場合の「信用」というのは、その事業体がちゃんと存在していて、その事業体から物を買うためにお金を支払ったら、そのお金をちゃんと払ってくれるのか、物を売ったら、その代金をちゃんと支払ってくれるのか。
そういった、取引における信頼性、確実性のことです。

事業を安定して継続させるためには、社会的な信用が得られなければなりません。
信用を欠く事業者と取引をしたいとは思ってくれませんから、なかなか売上を上げることができなくなります。
また、融資を受けるのも難しくなってしまいます。

個人事業だとこの信用を得るのが比較的難しい傾向があります。
商品の販売やサービスの提供を行う場合、個人事業主は組織として動いている法人に比べて資力に劣るケースが多く、その点が取引相手にとっては不安要素になります。
そのため、取引金額の大きな契約を締結するハードルが法人より高くなることがあり、個人事業主とは取引しないという企業も存在します。
また、個人的な生活費と事業資金との区別を厳密にされていない事業主もいることから、融資の審査においても厳しく見られやすいです。

さらに、個人事業主の場合には実在性が確かめにくいということもあります。
法人の場合には、前述の『手続き』で述べたように、会社情報を法務局に登録しています。
そのため、法務局で取得できる総名所を確認することで事業主体が確かに存在していることが分かります。

個人事業主の場合にも、先ほど述べたような「商号登記」という制度がありますが、一般的な認知度が低く、それほど利用されていないため、法人のようにその存在性を確認しがたいということがあります。
今自分がここにいるんだから問題ないじゃないか、と思われるかもしれませんが、実在しない相手と取引をして、お金を支払ったけれども、商品・サービスを受けとることができなかった、ということも起こり得ます。

そんな悪いことをするわけないじゃないか、と言いたくなると思いますが、残念ながら、あなたがそんな悪い人にたまたま会ったことがないだけで、実際にそんな悪い人が存在するのです。
テレビやネットに載っている様々な詐欺のニュースがその一例です。

そして、そんな悪いことをする人は、そんな悪いことするわけないじゃないですかと言って、そんな悪いことをするものなのです。
そのため、相手方としては、そんな悪いことをする架空の事業主体と契約をしてしまうリスクを排除しやすいということで、個人事業主との取引よりも法人との取引を好む、そもそも、個人事業主とは取引しないということがあるのです。

個人事業から法人への移行(法人成り)で注意すること

先にも少し触れましたが、個人事業を営む方が事業規模の拡大などに応じて法人へ移行するケースがあります。
これを「法人成り」と言いますが、これを行う場合には、以下の点に注意が必要です。

各種手続きが必要

法人になるために、まずは法人という法律上の存在を作る必要があります
実質的には同じ人が運営をしているとしても、法律の上では、別の事業主体とみなされるため、法人を作る手続を行わなければいけないのです。

許認可が必要な事業を行っていた場合には、法人化にあたっては、一定の手続きをしなければなりません
基本的に、法人化する場合には、個人事業主の時に取得していた許認可は取り直し、すなわち、法人を設立した後に改めて許認可の申請を行うこととなります。

同じ人間がやっているのに何で許認可を取り直さなければならないんだ、と思われると思います。
確かに、実際に事業を行っている人に変わりはないのですが、法律上では、許認可というものは申請をした人に対して認める認めないを判断しています。
そして、法律上は、個人と法人は別の人と捉えられ、法人成りをする場合には、法人という個人事業主とは別の人が許認可の必要な事業を行うということになるため、許認可をそのまま引き継ぐことはできず、届出が必要になったり、新たに許認可を得ることになったりします。

そのため、飲食業などの許認可を受けている個人事業を法人化する時には、法人で許認可を取り直すことを考慮に入れた上で、様々なことを進めていく必要があります。

税制が変わる

個人事業と法人とでは課税のされ方が異なります

たとえば、先にも上げたように、法人の場合は、利益の大きさに関わらず税率は一定(約30%)ですが、個人事業主の場合には、所得金額によって税率が異なります(5~45%)。
また、個人事業主の場合には、赤字であれば、その程度により、所得税や住民税が減額または課税されませんが、法人の場合には、法人住民税の「均等割り」というものがあり、赤字であっても一定金額(都道府県によって異なりますが、東京都で7万円)の税金が発生します。

一方で、法人は個人事業主に比べると経費が認められやすくなります
個人事業主の場合には、個人事業主の生活費の払い出しは経費として認められませんし、事業を手伝ってくれる家族への給与の支払には制約がかかっていますし、また、家賃の充当や自動車にかかる費用などは、個人事業主よりも法人の方が経費として認められやすくなっています。

税金の節約が主目的となると本末転倒ですが、事業を継続していく上では、獲得した利益をできるだけ多く現金として手元に確保して、それを将来の事業拡大に充てたり、景気が悪くなった時の備えにすることは、大切なことです。
法人成りをするときには、単に利益の規模だけではなく、実際に法人成りした場合に税金において有利になるのかをしっかりと検討したうえで、行うようにするのがよいと言えるでしょう。

経営にかかる労力やコストが変わる

『個人事業と法人で違うポイント』でも説明したように、経営にかかる手間は法人の方が大きくなります
そのため維持管理に対して、個人事業のときよりも大きな労力や費用が必要になると認識しておく必要があります。

例えば株式会社なら株主総会の開催をしなければなりませんし、その開催にあたっての招集手続きなどは法律に定められているため、法に則って進めていかなければなりません。
また、株主総会の後には貸借対照表の公告もしなければなりませんし、公告には費用がかかる場合もあります。

以上見てきたように、法人成りする場合には、法人と個人事業主とで変わってくる様々なことを考えておく必要があります。
そのため単純に税負担など金銭面のみを比較するのではなく、運営に要する手間の差などにも着目して、本当に法人となるべきかどうかを判断したほうがよいでしょう。

まとめ

今回は起業の基礎知識として、個人事業主と法人の違いについて解説してきました。

個人事業主と法人の違いとしては、以下の点がありました。

  • ① 手続き
  • ② 事業体の運営
  • ③ 社会保険
  • ④ 税金の負担
  • ⑤ 社会的信用

手続きについては、個人事業主は開業届を税務署に提出する程度ですが、法人の場合には、定款を作って登記をしなければいけませんでした。
事業体の運営については、個人事業主は確定申告以外には特に続きを要求されませんが、法人の場合には、登記事項に変更がある場合にはその変更の手続きをしたり、決算の承認などに株主総会の開催なども必要になるのでした。
社会保険については、法人の場合には、厚生年金・健康保険に加入することになり、法人も社会保険料の半額を支払う必要があり、従業員を雇用する場合には、雇用保険にも加入する必要があるのでした。
税金に関しては、個人事業主の場合には累進課税制度が適用されて、利益が大きくなるほど税率が高くなるのに対し、法人は利益の大きさに関わらず一定(約30%)でした。
そして、社会的信用については、一般的に、個人事業主よりも法人の方が高く、取引や融資などでは個人事業主に不利に働くこともあるのでした。

そうしたことから、最初、事業が小さなうちは個人事業主として事業を営み、一定程度事業が大きくなったら法人に移行する「法人成り」をするという方法もあるのでした。
一般的には、利益が700~1,000万円になったら、法人成りをするとメリットが生じるといわれますが、法人成りをするに当たっては、許認可のとり直しが必要になるなど、いくつかの注意すべきことがあるため、そうしたことも考慮する必要があるのでした。

事業を開始しようというときに、個人事業主で始めるか、法人で始めるかを考えていらっしゃる場合には、ぜひ、上記のようなことを参考にしてみてください。

 

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